チャットレディが書く恋愛小説:そのいち
こんにちは!ちょこ札幌事務所スタッフです。今回も、閑話休題シリーズ(?)で、読書が趣味のチャットレディの女の子が、自分で小説を書くと言うので。短編小説を書いて頂きました!恋愛ものを指定したので、このブログの読者層に合うと思うのですが・・・。是非ご一読下さい!
恋愛物短編小説-1
ガツンッ!ビールの缶をテーブルに叩き付けると、泡立った飛沫がフローリングに四散した。
「はあ、最悪…
大学生生活も三年目を迎えた二十歳の晩夏。今日、付き合って二年が経とうとしていた彼氏の浮気が発覚した。
順風満帆のはずだった。けれど、ゼミのグループワークでのトラブルに、バイト先での大きなミス。その上、追い討ちを掛けるように発覚した彼氏の浮気。今日は何ていう日だ、厄日なのだろうか。
それも、同じサークルに所属している新入生である後輩女子との浮気だ。私が二人を目撃した時に向けられた後輩の勝ち誇ったニンマリと意地の悪い笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。全く、覚え立てほやほやみたいな、あざといメイクなんかしちゃって。清楚に見えて、至る所に高等メイクテクが施されていたあの可愛らしい女狐の思惑に、彼はきっと気が付いていないんだろう。そういうものにはいっとう鈍い癖に、女のあれこれには好き勝手口出しをする人だから。
あ、でももう彼じゃないんだ。そう自覚するなり突如ブワッと溢れ返った涙で、視界がぐにゃりと歪む。
「っふ、ぅ……」
それなりに好きだったんだけど、私じゃ駄目だったってことかなぁ。
こうして盛大に失恋をしてしまった私は、普段大して飲みもしない酒に飲まれるだけ飲まれて、小指一本でどうにか繋ぎ止めていた僅かな意識を手放すようにして、そのまま眠りに陥落したのであった。
それが、つい昨晩のことである。
「……」
二日酔いと寝不足、泣き過ぎが相まって齎(もたら)されたであろう頭痛に胃痛、そして何より、全身に伸し掛かる倦怠感。お陰様で、気分は過去一番に最低最悪だ。
まずは、せめて肌に張り付いて気持ちの悪い泥々になったこのメイクを落とそうと、覚束ない足取りのまま洗面台へと向かう。立ち上がった途端、クラリと眩暈がして倒れ込みそうになるところを、壁に手を這わせて何とか辛うじて堪える。
ようやく辿り着いた鏡に映った私の顔は、見るに耐えない無残な状態であった。パンパンに腫れ上がった真っ赤な目元に、よれて剥がれ落ちたファンデーション。涙で滲んで固まったアイラインと擦れたアイブロウ。そして極め付けに、目をパンダ状態にさせている完全に取れてしまったマスカラは、自分の中に存在する女としての自尊心を粉々に打ち砕くには充分であった。
だが、もうそんな生活も今日で終わりだ。
元彼の好みとやらに合わせてメイクはナチュラルに抑えてたが、本当はがっつりメイクをしたかったのだ。そう。だってもう、彼なんていないんだから。
そう考えると、やけに開放感に満ち溢れて来た。男女の恋愛観の相違として、男は“名前を付けて保存”、女は“上書き保存”と言うじゃないか。ああ、つくづく酒の力というものは偉大である。嫌なことを全部遥か彼方へ吹っ飛ばしてくれた。そうと決まれば、話は早い。
掌にたっぷりのクレンジングオイルを出して、くるくると肌を撫でるようにして毛穴に入り込んだメイク汚れを根こそぎ落とす。ふわふわの泡洗顔で刺激を与えないように触れる力だけで洗ってさっぱりとした肌に、ひたひたに化粧水を浸透させる。
顔にパックをしながら、コスメボックスを引っくり返してゴソゴソと漁る。奥に仕舞い込んでいたいわゆる派手めなコスメたちを引き出して、心の中で謝る。ごめんね。あんな浮気男の好みに合わせてやろうと思っていた私が、本当に心の底から大馬鹿だったわ。これからはどうか末長く宜しくね。
「やっぱり、腫れてる…」
顔からパックを外して、浮腫みを取るようにマッサージをする。冷凍庫に常備しているアイマスク型の目元専用の保冷剤を当てると、腫れ上がって熱を持っていた目元が少し楽になったような気がした。化粧水と乳液、日中用クリームでばっちり保湿をする。少しだけティッシュオフをしてから、ピンク味掛かった顔色補正効果のある下地を薄く顔全体に伸ばして、刺激の少ないミネラルリキッドファンデーションを、水で濡らしたスポンジで叩き込む。そうすると、前日までの私の怠惰をまるでなかったかのようにしてくれる、つるんとした美しい卵肌の完成だ。
眉毛を整えてアイブロウパウダーで毛の隙間を埋めて、ペンシルで眉尻を描き足す。上瞼にマットのアイシャドウをアイホール全体に塗って、涙袋にはキラキラのラメをチョンチョンと置くようにして乗せる。ホットビューラーできちんと睫毛を上げて、長さを出すマスカラをしっかりと根元から乗せて、アイラインをがっつりと引く。シェーディングを頬骨の下に引いて、全体的にルースパウダーを軽く叩(はた)くと、ひとまずは完了である。
最後に、私が個人的に一番大切だと思う部位、唇を仕上げる。散々悩みに悩んでボックスから取り出したのは、元彼からは圧倒的に不評であった、このダークな色味の口紅であった。
「……この色、しばらく使ってなかったな」
クルクルと繰り出して下唇に滑らせて、上下の唇を擦り合わせて馴染ませる。そうすると、一気に顔の印象が引き締まったように感じる。私のパーソナルカラー的に、流行りの愛らしいコーラルピンクよりも、こっちの方が圧倒的に似合うのよ。
▽
ルームウェアからこのメイクに似合う服に着替えて、いつものようにアパートを出る。今日はゼミとサークルのミーティングだけだから、荷物は少なくて済む。帰りに気晴らしも兼ねて、ショッピングでも寄って行こうかな。そんなことをぼんやりと考えながら、私は親友と待ち合わせをしている講義室へと入った。
「おはよう」
「おはよう…えっ! ど、どうしたの!?」
「あはは…。イメチェン、かな?」
親友にはギョッと目を剥いて顔を二度見されたが、私の表情から全てを察してくれたのであろう。その場で多くは聞かずに「…前の化粧も可愛かったけど、すっごい似合ってる。後で話聞かせてね」と眉を下げて微笑んでくれた。
それからの私は、元彼と別れたことで、濃いメイクをしっかりとするようになった。正直、男ウケは最悪だったが、私個人としては大満足だ。何より、女友達からは「それってどこのリップ? 可愛い!」 「こっちの方が似合ってるよ!」 「強い女って感じ! 私にも教えて!」と総じて大絶賛を受けたのだ。
しかし、そんな私であったが、幾ら外見を取り繕うことができたとしても、中身まではすぐには変われない。サークルに参加する度に、元彼と例の後輩女子からの視線をびしびしと全身に感じて、その度に笑顔が崩れてしまいそうになった。
けれど、そんな劣等感や疎外感は、全てメイクが忘れさせてくれた。このメイクが、女としての私に、再び自信を取り戻させてくれたのだ。
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