チャットレディが書く恋愛小説:そのさん
こんにちは!ちょこ札幌事務所スタッフです。今回も、読書が趣味のチャットレディの女の子が書いた短編小説の続き、3となります!物語も段々佳境に差し掛かって来ました。前回の飲み会での急展開から、主人公は果たしてどんな選択をするのでしょうか?今回もお楽しみ下さい。
恋愛物短編小説-3
宴会場に激震の走ったあの飲み会から、今日でちょうど三日が経った。私は今現在、とても気まずい大学生活を日々送らざるを得ない状況に立たされていた。
あの後、○○先輩の爆弾発言を受けて、衝撃の余りにその場でフラフラと気を失いそうになっていた私は、程良く酔っ払っていた友達二人によって居酒屋の外へと連れ出され、そのまま無事に家へと送り届けられた。
月曜日の今日は、昼から大教室での講義だ。大画面に流れる映像を見て、配布されたレジュメに少しのメモを取るだけで簡単に単位が取れると評判で比較的に好きな授業だが、私は今日ばかりはこの場から逃げ出したい衝動に襲われていた。
単位が取りやすい授業というものは、その評判に伴って当然生徒の受講者数も多い。先程から主に女子からの視線を感じるし、そればかりか、ヒソヒソこそこそと噂されているような気さえするのだ。
女の世界というものは総じて、情報が巡るのが速い。そして、それが色恋になれば尚更だ。これ以上注目の的になることが嫌で、私は机の上に重ねた両腕に額を押し付け、腕の檻に顔を隠すようにして俯いていた。
「さーて、正直に白状しなさい。アンタ、○○先輩と交流あったの?」
そんな私の両隣をドッカリと陣取るなり、好奇心をまるで隠す様子も見せず遠慮なく尋ねて来たのは、同じく飲み会に参加していた例の二人の友達である。私は上半身をべったりと机に預けたまま、今にも消えてしまいそうなくらいに小さな声で力無く答えた。
「まさか…。そんなの、あったら二人に話してるに決まってるじゃない…」
「だよね。だとしたら、メイクが変わったアンタの顔に惚れたのかも?」
「結局世の中顔なのかなぁ…。でもさ、あの○○先輩でしょ?最良物件じゃん」
○○先輩にああいう風に褒められたことは、これでも私だって一応女として生きているのだから、嬉しくない訳がない。
でも、あの場から何も言わずに立ち去った私なんか、きっと幻滅されただろう。私なんかがあんなイケメンの前から逃げ出したなんて、全く身の程知らずもいいところだ。心に重く圧し掛かってくる罪悪感で、最早吐き気すら覚える。
「…まぁ、次会った時にでもちゃんと話せばいいんじゃない?元気出しなよ」
「絶対大丈夫だよ。○○先輩、優しいし」
「……うん。ありがとう」
どんよりとしたオーラを纏った私の背が、まるで慰めるようにスリスリと上下に撫でられる。ボロボロの心に痛いくらいに染み渡る彼女達の優しさに、人目を憚ることなくポロリと涙が零れ落ちてしまったのであった。
▽
そんなこんなで、どうにか元彼のことを忘れることができそうになっていた、そんな矢先。授業に向かうために、キャンパス内の中庭を横切る細い通路を歩いていた時のことであった。
「……ッ!」
前方から歩いて来た男女二人を目の当たりにして、私はまるでその場に足が縫い付けられてしまったように棒立ちになってしまった。思わず目元がピクリと引き攣り、顔全体がピシリと強張る。元彼と、例の後輩女子だ。何とまあ、まるで他人に見せつけるように腕を組んで、互いにべったりと密着している。
しかし、このまま進んでいくと、ちょうどあの二人と鉢合わせしてしまう。踵を返して元来た道を引き返そうとも考えたが、この道でないと目的の校舎へは行けない。
「……」
仕方がない。我ながら最悪のタイミングだが、なるべく目を合わさぬようにして、何事もなかったかのように通り過ぎるしかない。
それに、いつまでも避け続けている訳にはいかない。これからも凡そ二年間の大学生活を送る上で、彼らとは否が応でも顔を合わせる羽目になるのだから。そうやって自分を宥め賺してどうにか腹を括った私は、俯きながらもどうにかその場を何とかやり過ごそうとした。
すると、そんな私の背中に近付く大きな影が、一つ。
「ねえ!明日の夜、ご飯食べに行かない?」
「ッ、わっ!」
突如大きな声と共に、ヌッと背後から伸びて来た大きな手を右肩に回される。そのまま左方向にグイッと身体を引き寄せられて、バランスを崩した私は思わず素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった。胸板だろうか、硬い筋肉に思い切り打ち付けてしまった左頰がジンジンと鈍く痛む。
一体、誰だ。こんなに体躯の良い知り合いなんて私にいただろうか。頭を後ろに倒して、その大きな手の持ち主の随分と高い所にある顔を見上げる。しかし、ちょうど逆光になっていて見え辛くて、眉間に皺を寄せてジィと目を凝らした。
「…ッ!」
ようやくその人物を認識した私は、思わずハッと息を呑んだ。何で、何でこの人が。
私の肩に手を回していたのは、あの○○先輩だったのだ。
「ち、ちょっと!○○先輩、重たいですってば!」
「アハハ!ごめん、驚かせちゃった?……ねえ、明日何食べたい?」
こちらに何の気まずさも感じさせぬような、フランク且つ穏和な話し方。すると、一体何故だろうか。あれだけ悩んでいたはずなのに、長い睫毛が縁取る私を見下ろす漆黒の瞳がとても優しい色をしていて、私は思わずそれに縋ってしまいたくなったのだ。
「………。や、焼き鳥?」
「おっ、いいね。俺の奢りでどう?」
「えっ…!いいんですか…!」
そこで、私ははたと我に返った。そう言えば、あの人たちは?ガバッと顔を上げて前を見ると、二人の姿はそこにはなかった。いつの間にそこから立ち去っていたのか、中庭の真ん中の通路には、私と○○先輩だけが取り残されていた。
「……」
すると、私の肩に置いた手を離さぬまま、○○先輩がチラリと後ろを振り返った。肩に置かれた手には未だ力が込められていて、まるで私が後ろを振り向くことを阻止しているかのようである。私は特に気配などに敏感な訳ではないけれど、それでも今だけは、彼が何を見ているのかが容易に理解できた。○○先輩の視線の先には、きっと恐らく、例の元彼と後輩女子がいるのだ。
彼らは、私を見ているのだろうか。男に浮気された挙句捨てられたというステータスに縛られたままの惨めな私を、嘲笑っているのだろうか。
いつもの私であれば、ついそんなネガティブな思考に陥ってしまっていた。けれど、不思議なことに、今はそうは感じない。こうして○○先輩が傍にいてくれるだけで、そんなことに悩む必要はないとさえ思えたのだ。
すると、こちらへと向き直った○○先輩がニッコリと笑って言った。
「…そうだ、今から授業あるんだよね?そこまで一緒に行こうか」
「あ、ありがとう、ございます」
「ん?何のこと?」
「……いえ、何でもありません」
まさか、まだ私が動揺しているのだと察して、気を遣って下さったのだろうか。きっと、○○先輩は全て分かっていらっしゃるのだろう。その上で、私が例の二人を前にして硬直していたことに、あくまでも気付かないフリをしてくれているのだ。
校舎へと向かって歩き始めた私達だったが、不意に○○先輩が口を開いた。
「でも、今日は捕まって良かった」
「……。今日、は?」
「この前の飲み会では見事に逃げられちゃったからなぁ。これでも、今回は逃げられないように必死なんだよ?」
ハッと思い出して、私は大慌てで○○先輩から距離を取った。
そうだ。すっかり忘れていたが、私はこの人から半ば逃げるようにして、宴会場を抜け出してしまっていたのだ。
「ッす、すみません!あ、あの時は、その!」
「ううん、あの時は急に迫った俺が悪かったと思うし。でも……実はこれでも、結構凹んだんだよ?」
耳元に唇が寄せられて、熱っぽく囁かれる。当の本人である私でさえ気が付いていなかったような、女の奥底に眠る庇護欲という母性を擽る寂しげな声に、私の背筋はまるで電流が走ったかのようにゾワリと粟立った。
「…ってことで、お詫びも兼ねて食事行ってくれると、俺としては嬉しいな」
「は、はい。でも、それならやっぱり私に奢らせてくれませんか?」
「後輩、それも女の子に奢られる気はさすがにないよ。こうゆう時は素直に大人しく甘えとくべきだって」
「……はい。ありがとうございます」
気不味さを感じたのはその一瞬のみで、○○先輩の達者な喋り口調と交わす会話はテンポが良くとても面白くて、私達が目的の校舎に辿り着くのはあっという間であった。
「じゃあ、ここで」
「いや、教室の前まで送るよ。三階でしょ?」
「で、でも、わざわざ教室の前まで送って下さらなくても」
「………。まさか、本気で気付いてないの?」
「へ?」
心底驚いたように目を真ん丸に見開いた彼の顔を見上げて、コテンと首を傾げる。一体何のことだろうか、全く思い当たる節がない。
暫く呆然と私を見下ろしていた○○先輩であったか、額に手を押し当ててハァ…と深く溜め息を吐くと、ズイッとその端正な顔を私へと近付けた。
「……コレ、他の男への牽制も兼ねてるんだけど?」
「ッ!」
思い掛けぬ言葉にギョッと瞠目して、私は思わず彼の顔を二度見してしまった。真剣な色を湛えた涼やかな目元が、動揺する私の様子をジィと射抜く。彼の深く美しい黒の瞳に、私の何とも情けない間抜け面が映り込んでいる。
すると、私のそんな反応に満足したのか、その表情がコロリと一変し、彼の端整な口元がにっこりと弧を描いた。
「一緒にいれる時間も増えるし、俺からしてみれば一石二鳥ってわけ」
「な、なっ…!」
「じゃあ、また連絡するね。授業頑張って」
私の頭をポンッと軽く撫でた○○先輩は悪戯っぽい微笑を残し、元来た道を引き返して行った。
「〜ッ!!」
嗚呼、狡い。本当に狡い。あんなの、好きにならない訳がないじゃない。
ただの善意じゃ、なかったんだ。下心が、あったんだ。そう理解してしまったというのに、明日平然として彼と顔を合わせられるはずかない。
彼があれ程までに人に好かれている理由を、この一瞬で幾つも垣間見せられたような気がした。最早言うまでもないが、その後の授業には全く集中することができなかった。
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