チャットレディが書く恋愛小説:そのよん(完結)
こんにちは!ちょこ札幌事務所スタッフです。読書が趣味のチャットレディの女の子が書いた短編小説は、今回の4がラストとなります。主人公と先輩の関係は、一体どうなるのか?是非、最後までお読み下さい!(4話完結なので、興味を持った方は、是非最初から読んでみてネ♪)
恋愛物短編小説-4
「それで○○さんとデートすることになったのね!良かったじゃない!」
「……」
お昼休みの食堂にて。親友に例の件を相談すると、花が綻ぶ満面の笑みが向けられた。この大学一といっても過言ではない絶世の美女である彼女の笑顔は、女の私をもうっとりとさせる程だ。しかし、今はその整い過ぎた顔に見惚れている訳にはいかない。昔からどうにも楽観的な所がある親友に、私は思わず深く溜め息を吐いた。
「あのねえ…笑い事じゃないのよ。私、本当に真剣に悩んでるんだから」
「だって、あなたもう恋愛には積極的になれないと思ってたから…。これを機に新しい恋を始めてみるのもいいじゃない、ね?」
「そうかもしれないけど、でも…」
「……。やっぱり、恋愛することがまだ怖いの?」
親友の的を射た質問に私は思わずグッと言葉に詰まり、唇を左右に引き結んだ。
そうだ。私は、まだ怖い。
○○先輩と付き合いたいのか否かという話は取り敢えず置いておいて、ふとした瞬間にどうしてもあの元彼のことが頭を過るのだ。こんな気が漫ろな曖昧な状態でデートをするなんて、正直申し訳ないと思ってしまう。
「そ、それに…」
そこで言葉を区切って、視線をチラリと彼女へと向ける。
確か私の記憶が正しければ、目の前で笑っているこの親友は、度々あの○○先輩のことを目で追っていたはずだ。きっと少なからず、彼に対して好意を抱いていたのであろう。そんな親友を差し置いて○○先輩とデートだなんて、どうにも私の良心が許せないのである。
「もう、私は大丈夫よ!……だから、ね?」
そんな表情の優れない私を見つめた親友が、にっこりと微笑む。すらりと美しい手がこちらへと伸びて来て、彼女の掌が私の両頬をピタンと挟み込んだ。
「あなたは、私のことなんか気にせずに、ちゃんと彼と向き合って来てね」
「……うん、分かった」
○○先輩とのデートは、もう約二時間後まで迫って来ていた。
▽
あれから私と○○先輩は、頻繁にSNSでやり取りを交わし、時にはキャンパスで一緒にお昼を食べたり、さらには何気ないことで夜に電話をしたりなんかもして、順調に仲を深めていった。
しかし、事態が急に不穏な気配を帯びたのは、○○先輩と仲良くなったことで私も元彼のことを忘れかけつつある、そんな時のことであった。
久し振りにサークル活動に参加した私に、例の元彼が話し掛けて来たのである。
「なあ、今ちょっと話してもいいか?」
「!」
ヘラリと眉を下げて笑ってそう言った元彼に、私は自分の顔の筋肉がカチンと硬直したのが分かった。
一体、何を今さら。どの面を下げて話し掛けて来られるのかと、思わずその場で口汚く罵倒したくなる。しかしその場は当然、メンバーが勢揃いするサークル活動中である。故に、同期や後輩、さらには先輩方からの視線が私たちに集中しているのをヒシヒシと感じた。
「……。ええ、少しなら」
こういった衆人環視という場を選んで話し掛けて来る辺り、この男と付き合っていた時には恋という盲目で見えていなかった卑怯な面が垣間見える。好奇心で湧き立つ周囲の視線に促され、仕方なく渋々と頷いた私は、元彼に誘導されるままにその後をついて行った。
しかし、そんな私が連れて来られたのは、大学特有の広いキャンパスの中でも人通りが極端に少ない、手入れが行き届いていない木々が鬱蒼とした校舎の裏側であった。
「……ちょっと。こんな所に呼び出したりして、一体どういうつもり?」
「まあまあ、そんなに怒るなよ」
緊張のあまり強張る表情を隠さずそう尋ねると、にへらとした曖昧な笑みがこちらへと向けられる。その真意を測りかねて、私は思わず首を捻った。
しかし、その元彼の口から飛び出たのは、信じられない一言であった。
「なあ、また俺と付き合おうぜ」
「………。は?」
私は、思わず我が耳を疑った。この男は、今何て言った?
つまり私を待ち受けていたのは、よりを戻そうという、まるで予想だにもせぬ、到底容易には信じられないような馬鹿げた提案であったのだ。
「……な、何、言ってるの」
自分から浮気をして私から離れていった癖に、今になってよりを戻そうと持ち掛けて来るだなんて、一体どんな神経をしているのだ。
「大体さぁ…その派手なメイク、お前には似合ってねーよ」
「ッ!」
そのように乱暴に吐き捨てられた私は、思わず返答に詰まってしまい、唇をグッと強く噛み締めた。
しかし、そんな私の僅かな様子の変化を見て図に乗ったのか、口元に弧を描いた元彼が、まるで畳み掛けるかのように次々と言葉を積み重ねて来た。
「前の清楚なメイクの方が、お前に似合ってたって!その派手なの止めろよ」
うるさい。
「まるで俺への当て付けみたいに一気に派手になってさぁ、俺にフラれてショックだったんだろ?ごめんごめん、アレは一時の気の迷いだったんだって!またヨリ戻して、俺ら上手くやろーぜ」
うるさい。うるさい。
「お前、最近あの○○先輩と遊んでるみたいだけど、本当はまた俺と付き合いたいんだろ?いいぜ、付き合ってやるよ」
うるさい。うるさい。うるさい!
そんな訳ないじゃない。よくもまあぬけぬけとそんなことが言えたわね。何であなたにそんなこと言われなきゃならないの。私は、あなたみたいな最低男なんかと別れることができて、心底良かったって思っているくらいなのに。
言いたいことはこんなにもたくさん浮かんで来るのに、抑え切れない憤激のあまりに唇が小刻みに震える。馬鹿で自分勝手な元彼を睨め付けようにも、視界が歪んで前が見えない。
「……ッ、ふ、ぅ」
思わず口端から嗚咽が漏れ出る。そんな元彼はというと、こんな様子の私を放り置いて、声高に自分の一人演説に聞き入って勝手に酔い痴れている。私の頬に滂沱と流れるこの涙を、まさか嬉し涙だとでも思っているのだろうか。だとするのならば、勘違いも甚だしい。
本当に、心底腹が立つ。臓腑から湧き上がる憎悪にも似た激情が、今にも爆発してしまいそうだ。
しかし、その次の瞬間であった。
突如私の身体は、背後に現れた誰かの胸板へと向かって、グイッと力強く引き寄せられた。思わず体勢を崩して、その逞しい胸板へと倒れ込む。
「ッ!」
高い身長と隆起した筋肉、背中に仄かに感じる体温、そして、この爽やかなコロンを愛用している彼の香りを、今の私が間違えようはずがなかった。
「……自分から浮気したクズ野郎が、この子のことを否定しないでくれる?」
その声を聞いた途端に、私の目からは先程までとは違う涙が勢い良く溢れ出た。ついこの間までは、この声が誰のものかは分からなかったけれど、今は声を聞かずとも、彼に触れただけですぐに分かってしまった。つくづく彼は、まるで私のヒーローである。
「○○先輩…!」
首を折って彼の顔を見上げると、その額に少しの汗が流れていることに気が付いた。さらに、僅かではあるがその息を切らしている。いつもは穏やかであったはずの鼓動も、ドクドクと高速で波打っている。まさか、ここまで大急ぎで駆け付けてくれたのだろうか。
「○○先輩…私、そ、の」
「ううん、そのメイクとっても似合ってるよ。君はコイツの言うことなんて気にせず、したい化粧をすればいんだ」
「あ、えっと」
「……それとも、俺の言うことが信用できない?」
私の目をジッと見つめてそう言った彼の穏やかな微笑に、思わずドクンッと胸が高鳴った。そして、その背後からは、例の元彼が茫然とした様子でこちらを見つめていることに気が付いた。
そうだ、最早比べるまでもない。一体、今更何を迷うことがあるのか。○○先輩の方が、その見た目だけではなく中身までもが、段違いで格好良いというのに。
「……いいえ。お洒落な△△さんの言うことだから、間違いないですもんね」
「!!」
初めて○○先輩の名前を呼ぶと、目の前の彼はその美しい黒をした両眼を大きく見開いたかと思うと、その眦を愛おしげにゆるゆると緩めて微笑んだ。
「…うん。本当に綺麗だよ」
すると、不意にパッと顔を上げた○○先輩が、私たちが元来た方向を指差した。
「あ、君の友達が心配して見に来てるよ。行っておいで」
「で、でも」
「うん、俺もすぐ行く。……コイツと少し、話をしてからだけどね?」
少し不安ではあったが、流石に暴力沙汰などにはならないだろう。そう判断した私は、不安そうな顔をしてこちらを見つめる友達の元へと駆け出したのであった。
▽
○○は、例の元彼とやらに詰め寄られている思いを寄せている女を見て、久し振りに自身の頭が真っ白になる感覚に陥った。それでも、この目の前の最低極まりない男に殴り掛からずにいれたのだから、存外理性とやらは働いていたらしい。
「……随分と都合の良いオツムしてるんだね」
「な、にを」
「まあ、あの子と別れてくれた君には感謝してるよ」
チラリ、元来た方向へと視線を飛ばす。友達に駆け寄った彼女が見せる満面の笑みは、サークルの新入生歓迎会の時に○○が惚れたものと何ら変わりがない。
「……逃した魚が随分と大きかったことに気が付いたって、もう遅いんだよ」
その愛しい女が今も、そしてこれからも笑っていられるのであれば、それで良い。それでも、惚れた女を一度ばかりでなく二度も泣かせた罪は、当然非常に重い。
「今後一切、あの子に近付くことは許さない」
「ッ、なっ」
ゾワリ。男は何かを反論しようとしたが、向けられた確かな殺気に身を強張らせた。漆黒をした瞳は、今にも男を射殺さんとばかりにギラギラと剣呑な光を湛えている。ただでさえ身長差があるというのに、その全身から放たれる威圧感は、男を竦み上がらせるには充分であった。
「自分がしたことを、せいぜい悔やむといいよ。……その指咥えて、蚊帳の外から見てな」
○○は最後にそう吐き捨てると、愛しい女の待つ方へと悠々と歩き出した。真正面から○○の殺気を浴びせられた男は、膝と両手とをその場に突いて、ガックリと力無く項垂れたのであった。
▽
「○○、先輩」
こちらにやって来た○○先輩に駆け寄ると、まるで私に何の心配も抱かせまいとでもいうような、穏やかな美しい微笑が向けられた。
「……あれ?もう名前では呼んでくれないの?」
「!!」
それどころか、小首を傾げて悪戯げにそう言った彼に、どこか艶っぽい笑みを向けられる。たっぷりとした色気に当てられて、思わず口から心臓がまろび出そうになった。泣かされて熱を持っていた先程までとは違い、今度は彼の魅力のせいで顔から火が噴出しそうだ。
すると、はにかんだような笑顔で大きく両手を広げた彼目掛けて、私はその胸元に真正面から飛び込んだのであった。
「△△さん、好きです」
「…実はね、俺の方がずっと前から好きなんだよ」
「えっ!?」
そんな話は聞いていない。一体いつから私のことが好きだったのか。とても気になるけれど、時間はまだまだある。これからゆっくり聞いていこうと、彼の腕の中でフフと笑みを漏らしたのであった。
▽
いかがだったでしょうか。読んだ貴方はこの主人公に共感出来たでしょうか?それとも、こんな都合の良い展開は現実には無い、と否定するでしょうか。何はともあれ、短編とは言え、4話もの文章を綺麗にまとめて完結させた、女の子に拍手を頂ければ幸いです。この物語が、作者の実体験から来るものか、フィクション作品であるかは、本人のみぞ知る、と言った所。それでは、機会があれば、またこのブログで。最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ちょこ札幌の事務所スタッフの中には、チャットレディ経験者も多数在籍していますので、何か分からない事や不安な事があれば気軽に相談してくださいね♪